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『日本映画史110年』 ためになる映画の教科書

2014.09.29 01:20|映画
 著者は四方田犬彦。2000年に刊行された『日本映画史100年』の増補改訂版とのこと。僕は前著を読んではいなかったのですが、アマゾンのレビューによれば「後書」のある部分が直されているようです。このblogで前回取り上げた蓮實重彦の名前が新たに加えられているのです(『ボヴァリー夫人』の名前は前著にも記されていたところからすると、元から意識していたのかもしれません)。
 著者・四方田は『ルイス・ブニュエル』の「後記」では大病をしたことが書かれていたりもするので、何らかの心境の変化があったのでしょうか。仲がよくないとかいう噂のあるふたりですが、映画批評という業界に関して何も知りませんし、単に余計なお世話ですが……。

日本映画史110年 (集英社新書)



 この本は個々の映画作品について詳細な批評をするようなものではないですが、「前書」にも書かれているように「小さく濃縮された書物」であり、大学の映画学の教科書として選定されるほどまとまっています。僕は映画は好きでよく観てはいても、映画史となるとほとんど知らないので色々とためになる本でした。
 日本に無声映画が導入されたころ、そこには活動弁士が説明者として添えられていたようです。弁士の役割はほかの国と比べるとより重要な位置にあったようで、弁士が説話行為のパフォーマンスの主体となる場合もあったようです。これは日本には人形浄瑠璃などの伝統があったからで、人形浄瑠璃は「舞台で演じられる人形劇」と「舞台袖の浄瑠璃」が合わさったもので、無声映画も「フィルムに映る映像」と「弁士の語り」がセットになったものとして受け入れられたようです。「日本映画の得意とするロングショットや長回しへの好みは、もともと弁士が得意の長台詞を語るために準備されたもの」(p.58)といった指摘は、思いもよらない指摘ですし、その影響は今でも語り手の独白などにも表れているのだと言います。

 今では日本の映画界は興行収入の面では、東宝のひとり勝ちのような状態ですが、昔はそうではなかったようです。僕が映画を観始めたころには、日活はすでにロマンポルノを製作している小さな会社というイメージだったのですが、実は最も歴史のある映画会社なのだそうです。そんな映画業界の栄枯盛衰なんかにも触れられています。

新興勢力であった東宝は、航空撮影などの技術革新に目覚ましく、軍部の記録映画要請にも積極的に応じていたので、生き延びることができた。時代劇、現代劇のどちらにおいても立ち遅れていたことが東宝に幸いした。戦時中を通して戦争映画をもっとも頻繁に製作し、市場の開拓に勤しんだのである。これに対して旧体質の日活、松竹は、軍部と結託することができなかった。(p.101)


 日本映画はかつてアジアでは模倣されるような位置にあったようです。黒澤明『用心棒』は香港映画の武術映画などにも影響を与えたように(もっとも黒澤明は世界的な存在かもしれませんが)。それでも最近の日本映画は韓国映画などの勢いに押されています。著者は、日本映画は日本の観客だけに内向している一方で、韓国はエンターテインメントを装ってはいても「韓国人とは何か」という強烈な主題意識に裏打ちされた映画を製作しているとして評価しています。

 この本に取り上げられた映画は索引によれば500本くらいだと思いますが、まだまだ観ていないものは多いです。現実的には新作を追うのだけでも大変で、過去の作品も観ないとってことになると、色々な余裕がないとできそうにないことですが……。
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