『成瀬巳喜男 映画の面影』 もっと成瀬作品が観たくなる
2015.02.24 00:21|映画|
著者の川本三郎は映画関係の本も色々と出している人で、『君美わしく-戦後日本映画女優讃』
という女優たちへのインタビュー本もあって、成瀬映画は女性映画を多く撮っていたわけですからまさに適役と言えるのかもしれません。

この本では上記の目次のように、毎回テーマに沿って映画監督・成瀬巳喜男の作品を読み解いていきます。「金をめぐる物語」という回では、『流れる』などを参考に、成瀬映画がしばし金の話をモチーフにするということに触れています。『流れる』は柳橋芸者の話ですが、はなやかな場面はありません。山田五十鈴演じる主人公はいつも金策に追われ、若い芸者の叔父からは言い掛かりをつけられて強請られたりします。
成瀬映画ではいつも劇中に出てくる物の金額というものを明確にするのだそうです。たしかに『乱れる』でも、高峰秀子扮する主人公は、酒の値段を10円単位で客とやりとりしていました。そんなふうですから淀川長治さんは成瀬巳喜男を「貧乏くさい監督」などとも評していたようです(笑いながらですが)。
成瀬巳喜男は松竹にいたときに、「小津は二人いらない」などと言われてほかの会社に移ることになるわけですが、似ているようでふたりの巨匠はまったく違います。成瀬の『流れる』でも『乱れる』でも具体的な働く姿が描かれるわけですが、小津安二郎の映画ではたとえば笠智衆はデスクに座ってはいますが、ただ判子を押してみたりするだけです。
また、著者は作品の背景などについても丁寧に解説してくれます。『流れる』は芸者たちの話ですが、「三業のなかでは、料亭のほうが芸者置屋より力が強い」(p.34)などと解説されます。三業というのは、料理屋・芸者置屋・待合のことで、料亭の女将である栗島すみ子(当時の大スター)のもとへ、芸者置屋の山田五十鈴が金を借りに行くことになるわけです。背景にはそうした三業の力関係があるということで、芸者遊びなんかしたことのない今の人間としてはとても作品理解の役に立ちます。
成瀬巳喜男といえば日本映画の巨匠と呼ばれながらも、黒澤明や溝口健二や小津安二郎ほど有名でもなければ、接する機会も少ないような気がします。近くのレンタル店にもなぜか1本のソフトも置かれていないことに気づいて驚きました。僕自身も有名な『浮雲』は何度か観ていますが、それを含めて10本程度は観たはずですが、学生時代に並木座なんかで観たもので、それほど記憶に残っているわけでもありません。
この本で取り上げられている作品の多くがなかなか観ることが出来ないというのもちょっと残念なことです。『おかあさん』などは著者がお気に入りの作品のようで、何度も触れられるのですが観る機会はなさそうです。
それから「郊外農家の人びと」という回で取り上げられる『鰯雲』という作品には、とてもよかったというおぼろげな記憶があります。カラー作品でラストの鰯雲のシーンがとても素晴らしかったような気がするのですが、この作品ももう一度観るのは難しそう。ぜひともこうした作品もレンタル店あたりで気軽に観ることができるような環境になればいいと思うのですが……。
追記:you tubeでは『銀座化粧』がアップされていて今回初めて観ました。銀座の路地の雰囲気がとてもよくて、やっぱり貧乏くさいところはあるのだけれど、前向きで楽しい作品でした。ここでは脇役だけれど、『杏っ子』では主役を務めていた香川京子さんがここでもとても可憐でした。


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1 「貧乏くさい監督」
2 消えゆく芸者の美しさ
3 金をめぐる物語
4 女に金を借りる男たち
5 愛すべき市井劇「おかあさん」
6 「私たちって、行くところがないみたいね」
7 卓袱台のある暮らし
8 郊外農家の人びと
9 未亡人たちの強さ
10 路地に生きる単独者
11 妻たちの不信のとき
12 子供たちを見つめる
この本では上記の目次のように、毎回テーマに沿って映画監督・成瀬巳喜男の作品を読み解いていきます。「金をめぐる物語」という回では、『流れる』などを参考に、成瀬映画がしばし金の話をモチーフにするということに触れています。『流れる』は柳橋芸者の話ですが、はなやかな場面はありません。山田五十鈴演じる主人公はいつも金策に追われ、若い芸者の叔父からは言い掛かりをつけられて強請られたりします。
成瀬巳喜男にとって、生活とは金のやり繰りであるという強い思いがある。だから、たとえ芸者が主人公であっても、その暮しを描こうとしたら金の話は欠かせない。これは黒澤明にも小津安二郎にもない成瀬巳喜男の映画の大きな特色である。庶民の暮しを描くことの多かった木下惠介でさえ、成瀬のように金の話ばかり語るようなことはしていない。(p.44)
成瀬映画ではいつも劇中に出てくる物の金額というものを明確にするのだそうです。たしかに『乱れる』でも、高峰秀子扮する主人公は、酒の値段を10円単位で客とやりとりしていました。そんなふうですから淀川長治さんは成瀬巳喜男を「貧乏くさい監督」などとも評していたようです(笑いながらですが)。
成瀬巳喜男は松竹にいたときに、「小津は二人いらない」などと言われてほかの会社に移ることになるわけですが、似ているようでふたりの巨匠はまったく違います。成瀬の『流れる』でも『乱れる』でも具体的な働く姿が描かれるわけですが、小津安二郎の映画ではたとえば笠智衆はデスクに座ってはいますが、ただ判子を押してみたりするだけです。
また、著者は作品の背景などについても丁寧に解説してくれます。『流れる』は芸者たちの話ですが、「三業のなかでは、料亭のほうが芸者置屋より力が強い」(p.34)などと解説されます。三業というのは、料理屋・芸者置屋・待合のことで、料亭の女将である栗島すみ子(当時の大スター)のもとへ、芸者置屋の山田五十鈴が金を借りに行くことになるわけです。背景にはそうした三業の力関係があるということで、芸者遊びなんかしたことのない今の人間としてはとても作品理解の役に立ちます。
成瀬巳喜男といえば日本映画の巨匠と呼ばれながらも、黒澤明や溝口健二や小津安二郎ほど有名でもなければ、接する機会も少ないような気がします。近くのレンタル店にもなぜか1本のソフトも置かれていないことに気づいて驚きました。僕自身も有名な『浮雲』は何度か観ていますが、それを含めて10本程度は観たはずですが、学生時代に並木座なんかで観たもので、それほど記憶に残っているわけでもありません。
この本で取り上げられている作品の多くがなかなか観ることが出来ないというのもちょっと残念なことです。『おかあさん』などは著者がお気に入りの作品のようで、何度も触れられるのですが観る機会はなさそうです。
それから「郊外農家の人びと」という回で取り上げられる『鰯雲』という作品には、とてもよかったというおぼろげな記憶があります。カラー作品でラストの鰯雲のシーンがとても素晴らしかったような気がするのですが、この作品ももう一度観るのは難しそう。ぜひともこうした作品もレンタル店あたりで気軽に観ることができるような環境になればいいと思うのですが……。
追記:you tubeでは『銀座化粧』がアップされていて今回初めて観ました。銀座の路地の雰囲気がとてもよくて、やっぱり貧乏くさいところはあるのだけれど、前向きで楽しい作品でした。ここでは脇役だけれど、『杏っ子』では主役を務めていた香川京子さんがここでもとても可憐でした。
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