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『アーサーとジョージ』 コナン・ドイルという魅力的人物

2016.02.29 21:11|小説
 ジュリアン・バーンズの2005年の作品で、今回が初の日本語訳。翻訳は真野泰山崎暁子

アーサーとジョージ



 バーンズの名前に惹かれて何も知らずに読み始めたのですが、物語はゆっくりとふたりのそれぞれの生い立ちを綴っていきます。アーサーは飲んだくれの父親と騎士道物語を語ってきかせるのが好きな母親の間に生まれ、医者になります。ジョージはイングランド国教会の司祭の子供として生まれ、のちに法律関係の本も出す事務弁護士となります。
 ふたりの人生はそれぞれに進み、なかなか交わりません。初めてふたりの人生が交差するのは、この小説の半分を過ぎたころになります。アーサーとは、アーサー・コナン・ドイルのことです。言わずと知れたシャーロック・ホームズを生み出した作家です。そして、ジョージとはある冤罪事件の被害者となるジョージ・エイダルジという人物です。アーサーが実在の人物であったように、ジョージも実在します(ウィキペディにもアーサーが関わることになる冤罪事件のことが書かれています)。

 ジョージといういかにもイギリス風の名前の一方の主人公は、純粋なイングランド人とは言えません。ジョージの父親はパールシーと呼ばれるインドに住むゾロアスター教の信者で、のちに改宗してイギリス国教会の司祭となりました。ジョージはインド人の父親とスコットランド人の母親から生まれた混血児なのです。
 この小説ではそうした人種的偏見が事件の裏側にあったことは仄めかされてはいますが、ジョージは否定しています。とはいえ当時の警察や内務省などに落ち度があったことは事実で、ジョージは無実の罪で長らく服役することになります。そんな彼を救い、ジョージに人生を取り戻させたのがアーサーだったのです。
 「アーサーの生活には無為ということがない。」(p.256)と記されているように、アーサーはひと時も休むことを知りません。彼がホームズを書き上げたのも、眼科医を開業時に客が来なくて暇を持て余していたときの手すさびであったようです。アーサー・コナン・ドイルに関してはほとんど知らなかったのですが、とても関心を持って読みました。
 この小説のなかでアーサーはホームズのように事件について推理したりもしますが、そうした面だけではなくアーサー自身が人間的にとても魅力的な人物なのです。晩年には心霊主義にはまり世間を驚かせたようですが、この小説を読むとそんなに奇抜なことでもないようにも感じられました。アーサーはただ考えるだけではなく即実行する人で、そんな行動力がジョージの窮状を救ったわけですが、世の中に心霊現象のようなよくわからないことがあれば、わかるまで突き詰めてみようというのがアーサーのやり方なのだろうと思います。

 バーンズはポスト・モダンの作家に分類されるようです。僕は『10 1/2章で書かれた世界の歴史』『フロベールの鸚鵡』は読みましたが、小難しいところもあるけれど凝った手法で楽しませてくれました。個人的にバーンズの作品で印象に残っているのは、ごく普通の女性の人生が描かれている『太陽をみつめて』で、『アーサーとジョージ』もそんな系統の素直な読み物として楽しめる作品でした。『アーサーとジョージ』は二段組で約500ページもの分厚さですが、ジョージの冤罪に憤りを感じ、裁判の過程にハラハラさせられ、一方でアーサーの人間的な魅力に惹かれつつ、最後まであっという間に読み終えてしまいました。
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