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『仏教論争――「縁起」から本質を問う』 宮崎哲弥氏の危機意識

2018.07.22 13:09|宗教
 『宮崎哲弥 仏教教理問答』などの宮崎哲弥氏の新書。

仏教論争 (ちくま新書)



 この本は「縁起とは何だろうか。」という問いかけから始まります。ネット検索すれば、たとえば「他との関係が縁となって生起するということ」(ウィキペディアより)といったそれなりの答えを見つけることができます。しかしこの本ではそれについてもっと詳細に検討していくことになります。
 そのきっかけとして第一次縁起論争と第二次縁起論争というものについて見ていくことになるのですが、これがなかなか難しいものとなっています。縁起論争そのものを知らない僕のような読者は、内容を追っていくのに精一杯だからです。
 論じられるのは「十二支縁起はブッダの悟りの内容なのか」とか「縁起と無常の関係性」とか「無常の根拠は?」など様々です。宮崎氏はこの論争に対するこれまでの評価を覆すような読みを展開していくことになるのですが、素人の目にはどの部分を評価しどの部分を否定しているのか複雑でわかりにくくも感じられます。

 宮崎氏がこうした論争を微に入り細に入り追っているのは、今後、自らの論を展開していくための準備という側面もあるようですが、それ以上にある部分で必要性のある仕事だと感じられているからかもしれません。
 というのは「仏教とは何か」ということを問われたとき、それを一言で答えることはできませんし、『ごまかさない仏教』で語られている「仏・法・僧という三つの要素を受け入れろ」という大前提をクリアすれば何でも仏教になってしまう可能性すらあるからです。ブッダが説いた教えから遠く離れてしまうこと自体にも問題はあるのかもしれませんが、それ以上にオウム真理教の事件のような悪い例が念頭にあるからなのでしょう。

 縁起論争では著名な仏教学者などが論を展開していますが、一部では「反仏教的」としか言えないような論になっていきます。木村泰賢氏は「無明」にショーペンハウアー的な「意志」を注ぎ込んでしまい、和辻哲郎氏も仏教が説く概念の罠に囚われてしまっています(ここにはそのころの「大正生命主義」の影響も見られるのだとか)。
 以下は自分なりにこの本から学んだことを勝手に整理してみます。ブッダという人間が説いた仏教は2500年も伝わってきた有用な教えだからと考えたのか、仏教を道徳的な教えとして理解したり、「解脱」という目標を掲げながらもそれを「生命」と結びつけてしまったりする。「空」のなかに別の意味を読み込んでしまうような論は「反仏教的」ということになるのでしょう。
 また、仏教では「一切は無常である」と説かれます。それを説いているのは言葉です。しかしその言葉に囚われてしまうと、「一切は無常である」という概念自体を実体化してしまうことになり、「無常」という教えそのものだけは真理であり永遠のものだと考える罠に陥ることになってしまいます。宮崎氏は「ただ「一切は無常である」という危機的な自覚があるだけなのだ(p.267)」と戒めています。

 縁起説の歴史は、外道、つまり異なる宗教や思想との闘い以上に、仏教の内部に入り込み、根を張り、巣くった実在説、実体論との闘いの履歴という側面が濃い。
 それほどに実体や実覚への志向性は人間にとって原本的であり、心の病巣を切開し、完全に取り除くことは困難を極める。その手術は即ち、生命進化への反逆を含意するからだ。だが、そのような反逆なしには人は苦から解放されることはない、とブッダは断じている。 (p.303)

 「生命進化への反逆」とはどぎつい言葉ですが、縁起など仏教の根本的な教えについて丁寧に見ていくことで、ブッダが最初に伝えようとしたことを改めて確認しようとしているのでしょう。そうしなければ再びオウムのようなことが起こりうるかもしれないし、本当の教えがまったく別のものになってしまうかもしれないから。そんな危機意識が宮崎氏にこの本を書かせたということなのでしょう。
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