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『根源への旅: 神話・芸術・風土』 ギリシアに思いを馳せつつ

2019.02.04 20:23|哲学
 著者の立野正裕氏は明治大学文学部名誉教授とのこと。
 この本の出版は昨年の6月ですが、収録されている文章は1970年代から80年代にかけて書かれたものとのこと。

根源への旅: 神話・芸術・風土



 僕はこの本の第一部の「根源の人間」という部分が気になって何度か読み返したのですが、ここで論じられているのはニーチェが発したとされる問題です。それは「人間は存在する。だがなんの意味もない。存在は無である。この無をどのようにして人間は耐えるのか。」(p.29)というものですが、いつの間にかにこの第一部をニーチェの『悲劇の誕生』の注釈のように読んでいました。というのもニーチェが『悲劇の誕生』で書いたことを、より丁寧に言葉を補って書かれているように感じられたからです。
 ニーチェの文章は論理の飛躍があったり比喩的な表現が多用されるために、豊富な知識にも感受性に欠けるごく普通の読者としては煙に巻かれてしまう部分もあります。しかし「根源の人間」には、ニーチェが読者が当然知っているべきこととして書かないような部分も説明されていて、「根源の人間」を読んでから『悲劇の誕生』に戻ると、ニーチェの難解な文章も多少はわかりやすくなるような気がします。
 たとえば「シレノスの叡智」に関することは、僕が読んだ中公クラシックス版の「『悲劇の誕生』(西尾幹二訳)では23pから26pあたりに書かれていますが、「根源の人間」のほうにはこんなふうに説明されています。

 ギリシア人は、シレノス的ペシミズムに圧倒されて打ちひしがれた人生を送るためには、あまりにも生本能の強烈な民族であった。かといってシレノス的認識をなかったものにしてしまうためには、かれらの洞察力はあまりにも透徹しすぎていた。そこから、生きたいという欲求と生の無意味さの認識とのあいだに抜きがたい矛盾が生まれる。この矛盾が募り募って、ついにことがらを逆転させるにいたった。すなわちギリシア人はあろうことか、シレノスの認識を逆転させてしまった。
 「人間にとって最善のこと、それはこの世に生を享けぬことだ。人間にとって次善のこと、それは享けた生をすみやかに捨て去ることだ」というこの定式は、いまや次のように書き換えられる。「人間にとって最悪のこと、それは必滅の運命を免れないということだ」
 ここから生への執着が一挙に正当化される。 (p.84~p.85)


 もちろん「根源の人間」に書かれているのはニーチェの注釈だけではありません。ウィキペディアによれば『悲劇の誕生』は「造形芸術をギリシャの神アポロン、音楽芸術をディオニュソスに象徴させ、悲劇(および劇文学)を両者の性質をあわせ持った最高の芸術(文学)形態であるとした」などと要約されます。
 このアポロン的原理とディオニュソス的原理の対立が、「根源の人間」では様々な別の対立で言い換えられていきます。たとえばこの関係はアポロンの竪琴と牧羊神パーンの縦笛の対立にも表れています。というのもパーンとディオニュソスには密接な関係があり、サテュロスたちと同様にディオニュソスの従者であるからです(先ほどのシレノスも同様です)。さらにドーリス的なものとプリュギア(またはトラキア)的なものの対立、つまりはギリシア的なものと非ギリシア的なものとの対立であることが読み解かれていきます。
 ここで竪琴と縦笛の対立というように音楽の話になっているのは、『悲劇の誕生』も正式なタイトルは「音楽の精神からの悲劇の誕生」だからなのでしょう。それからあらゆる芸術において秀でていたギリシアも器楽だけは発達しなかったのはなぜかという問いに対しては、音楽は魂に直接働きかけるから為政者たちが封じ込めた可能性があると推測するあたりはとてもスリリングだったかと思います。
 立野正裕氏の本は初めてだったのですが、映画の本なんかも書いているようですので、そちらのほうも気になるところです。

悲劇の誕生 (中公クラシックス)


悲劇の誕生―ニーチェ全集〈2〉 (ちくま学芸文庫)


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