『帝国のベッドルーム』 現実の虚構化/虚構の現実化
2014.04.29 15:23|小説|
ブレット・イーストン・エリスの『レス・ザン・ゼロ』の続編。訳者は菅野楽章。
『レス・ザン・ゼロ』は当時ベストセラーになった小説で、映画も公開されて、主題歌となったバングルスの「冬の散歩道」(オリジナルはサイモン&ガーファンクルですが、こちらのヴァージョンはスザンナ・ホフスの声がいい)と一緒に、それなりに話題となりました。映画版の出演陣は、アンドリュー・マッカーシー、ロバート・ダウニー・ジュニア、ジェームズ・スぺイダーなどの人気者が揃っています。ジュリアンを演じたロバート・ダウニー・ジュニアは役柄と同様に薬物で苦しみましたが、現在は『アイアンマン』などで主役を張るなど復活して活躍中です。
この小説は「かつてわたしたちの映画がつくられたことがあった。」(p.5)と始まります。これは前作『レス・ザン・ゼロ』の映画版についての言及です。語り手であるクレイは、前作に描かれた自らのことや映画版についての評価、それを描いた作者についても言及しています。『レス・ザン・ゼロ』ではクレイ=語り手=作者(エリス)だと思っていましたが、この『帝国のベッドルーム』では、エリスと語り手クレイが分離しているようです。
今回もクレイの一人称で話が進みますが、クレイは現実の自分と『レス・ザン・ゼロ』に描かれた自分の違いを意識した存在で、前作の作者のことを「彼」と読んでいますから、クレイ自身がこれを記していることになります。映画の脚本家として成功しているクレイ自身が書いているという設定になっているのです。だから前作と作者が異なるようにも読めるのですが、実際の作者は前作と同じブレット・イーストン・エリスですから、奇妙な設定とも思えます。
前作でも重要な役柄だったジュリアンは、映画版では薬物中毒で死んでしまいますが、この作品では現実のジュリアンが試写室で映画『レス・ザン・ゼロ』を観ながら、自分が死んでしまったことに驚く姿が描かれます。この続編でもジュリアンは登場しますが、ジュリアンは映画で描かれたのと同じような道を辿ることになります。語り手のクレイもそれは同様で、前作に描かれたのは彼らをモデルにした虚構の姿だったはずですが、結局のところ前作に描かれた自分の姿(あるいは親の姿)を真似るような振舞いに終始することになります。若いころは親の金で好き放題していたのが、自分が稼ぐようになったという点が違うくらいで、金にものを言わせて女を好きにするあたりも、贅沢三昧しつつもどこか退屈していいて醒めているあたりも、あまり変らないようです。
冒頭ではメタフィクション的な存在となった語り手のクレイですが、話が進むにつれて再び虚構のなかに埋没していきます。現実の彼らの姿から『レス・ザン・ゼロ』が生まれた(ことになっている)わけですが、現実の彼らが虚構のほうに影響されて『レス・ザン・ゼロ』に描かれた人物そのものへ成り果てていく、そんなことを描いているようにも思えました。
『帝国のベッドルーム』にしても、久しぶりに読み直した『レス・ザン・ゼロ』にしても、会話ばかりで文章がひどくスカスカに思えました。『レス・ザン・ゼロ』を以前に読んだときは、僕も若かったのか、彼らの生活に強烈な印象を受けたように記憶していたのですが……。それでもこの続編についても映画化が予定されているとのことなので、そちらはちょっと楽しみです。
『レス・ザン・ゼロ』は当時ベストセラーになった小説で、映画も公開されて、主題歌となったバングルスの「冬の散歩道」(オリジナルはサイモン&ガーファンクルですが、こちらのヴァージョンはスザンナ・ホフスの声がいい)と一緒に、それなりに話題となりました。映画版の出演陣は、アンドリュー・マッカーシー、ロバート・ダウニー・ジュニア、ジェームズ・スぺイダーなどの人気者が揃っています。ジュリアンを演じたロバート・ダウニー・ジュニアは役柄と同様に薬物で苦しみましたが、現在は『アイアンマン』などで主役を張るなど復活して活躍中です。
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今回もクレイの一人称で話が進みますが、クレイは現実の自分と『レス・ザン・ゼロ』に描かれた自分の違いを意識した存在で、前作の作者のことを「彼」と読んでいますから、クレイ自身がこれを記していることになります。映画の脚本家として成功しているクレイ自身が書いているという設定になっているのです。だから前作と作者が異なるようにも読めるのですが、実際の作者は前作と同じブレット・イーストン・エリスですから、奇妙な設定とも思えます。
前作でも重要な役柄だったジュリアンは、映画版では薬物中毒で死んでしまいますが、この作品では現実のジュリアンが試写室で映画『レス・ザン・ゼロ』を観ながら、自分が死んでしまったことに驚く姿が描かれます。この続編でもジュリアンは登場しますが、ジュリアンは映画で描かれたのと同じような道を辿ることになります。語り手のクレイもそれは同様で、前作に描かれたのは彼らをモデルにした虚構の姿だったはずですが、結局のところ前作に描かれた自分の姿(あるいは親の姿)を真似るような振舞いに終始することになります。若いころは親の金で好き放題していたのが、自分が稼ぐようになったという点が違うくらいで、金にものを言わせて女を好きにするあたりも、贅沢三昧しつつもどこか退屈していいて醒めているあたりも、あまり変らないようです。
冒頭ではメタフィクション的な存在となった語り手のクレイですが、話が進むにつれて再び虚構のなかに埋没していきます。現実の彼らの姿から『レス・ザン・ゼロ』が生まれた(ことになっている)わけですが、現実の彼らが虚構のほうに影響されて『レス・ザン・ゼロ』に描かれた人物そのものへ成り果てていく、そんなことを描いているようにも思えました。
『帝国のベッドルーム』にしても、久しぶりに読み直した『レス・ザン・ゼロ』にしても、会話ばかりで文章がひどくスカスカに思えました。『レス・ザン・ゼロ』を以前に読んだときは、僕も若かったのか、彼らの生活に強烈な印象を受けたように記憶していたのですが……。それでもこの続編についても映画化が予定されているとのことなので、そちらはちょっと楽しみです。
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