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『ウィンターズ・テイル』 映画化された現代アメリカ文学の傑作

2014.05.28 20:24|小説
 1983年に発表された原書は、アメリカの文学界では大きな話題となった作品です。日本でも映画の公開に合わせて、新訳の登場となりました。巻末の解説で高橋源一郎が記しているように、当時はディケンズやガルシア・マルケス、ジョン・アーヴィングなどとも比較されて絶賛されました。僕自身、そのころ作者マーク・ヘルプリンのインタビューを読んで、この『ウィンターズ・テイル』が気になっていたのですが、今さら手に取ることになりました。

ウィンターズ・テイル(上) (ハヤカワepi文庫)


ウィンターズ・テイル(下) (ハヤカワepi文庫)



 白馬の視点から始まるこの壮大な物語は、19世紀末から新たな千年紀を迎える時代までを描いています。悪党たちに追われていた泥棒ピーター・レイクは、絶体絶命のピンチを白馬アサンソーに救われて、運命に導かれるようにベヴァリーという大富豪の娘と出逢います。しかしベヴァリーは不治の病に冒されていて……。
 第1章に登場するベヴァリーは、ピーター・レイクとの短い逢瀬ののち、結核で死んでしまいます。それから白馬に跨ったピーター・レイクは「雲の壁」の向こうへと消え、時を経て帰ってきます。約100年後の21世紀を迎えるという時代に現れるのです。

 公開中の映画では、このピーター・レイクとベヴァリーのエピソードが中心となっています(映画版は物語を端折りすぎて残念な出来に)。原作の『ウィンターズ・テイル』はそれだけでは終わりません。書評する誰もが要約不可能と語るような、長大で(文庫で約1000ページ)波乱に満ちた物語です。映画版の邦題(『ニューヨーク 冬物語』)に街の名前が冠されているように、この原作はニューヨークという街のすべてを描いたものでもあるのです。
 ピーター・レイクとベヴァリー以外にも多くの人物が登場しますが、主筋とはまったく関係ない脇役たちの造形も豊かで、高橋源一郎「誰よりも悲劇的なアビスミラード!」と賛辞を贈るような、魅力的なキャラクターに溢れています。また天翔る白馬アサンソーや、深い雪山の奥に隠れるようなコヒーリズ湖、謎めいた「雲の壁」など、幻想的な世界が広がります。

 ※ 以下、ネタバレもあり。 結末にも触れていますのでご注意を!

映画『ニューヨーク 冬物語』のイメージ。現在公開中です。

 ピーター・レイクはベヴァリーに死なれてしまいますが、その前に小さな子供がアパートの廊下で死にそうな顔で立っているのを見かけます(このイメージは別の登場人物にも重ね合わされています)。ピーター・レイクではなくても、こんな疑問を抱くのではないでしょうか。なぜベヴァリーのような人物が(あるいは廊下にいた子供のような存在が)死ななければならないのか? こうした理不尽極まりない事態に対するひとつの回答が、この小説なのだと思います。作者はそれを「正義」という言葉でとりあえずは示しています。

「正義のみに喜びを見出す、完全なる正義の都市を見るより美しいと考えられるものがあろうか」(上巻 p.377)

 この言葉は「完全なる正義の都市を探す」ために旅立つことになるハーデスティ・マラッタが、父親から受け継いだ黄金の盆に書かれたものであり、この物語では「正義」の実現のためにある計画が進行していきます。それらは「雲の壁」の向こうからやってきた人物たち(ジャクソン・ミード、ムートファウル、セシル・マチュア)によって担われます。その計画が首尾よく達成されれば、死者が生き返ることになるのだと言います。
 僕はこの本を読みながら、最後には全面的に「正義」が実現されて、亡くなったベヴァリーとピーター・レイクとの再会が描かれるものとばかり思っていました。シェークスピア『冬物語』が最後には奇跡のような大団円を迎えるように……。しかし違っていました。
 「正義」実現のための計画は失敗に終わり、ピーター・レイクは極めて限定的な「正義」しか達成できません。だからといって「正義」の実現という計画が完全に絶たれたわけではありません。ジャクソン・ミードたちは過去にも何度もその機会を伺っていて、今回も失敗に終わったとは言え、次の機会という希望は残されているからです。逆に言えば、完全にそれが実現したと記すことは、憚られるものなのだという気もします。
 松岡正剛『千年王国の追求』という本について、こんな感想を記しています。

 千年王国幻想は「ヨハネ黙示録」にとどまっているかぎりは、単なるハリウッド映画なのである。しかし、来たるべきアイオーンをこの「現在のどこか」に見いだそうとしたとたん、その思想と行動はキリスト教のいっさいの権威とぶつからざるをえず、また自身の思想の起源を問われることになるという、やはり恐ろしい幻想である。

 以前に取り上げた『黙示録――イメージの源泉』という本にも、「「いまここ」と「いつの日か」、「すでに~ある」と「いまだに~ない」、そのあいだを生きるのがキリスト教徒の宿命である。」と記されていました。「現在のどこか」「正義」が達成された都市を見いだすことは、やはり「恐ろしい幻想」なのでしょう。今ここに自らの「正義」を実現しようという幻想は、どこかのカルトが引き起こしたようなハルマゲドン騒ぎに結びつくこともあるからです。だからこの小説の結末も能天気な大団円を迎えることはなく、幾分か尻すぼみとも思える展開とその先にある希望のみが示されて終わったのかもしれません。それが作者としてのマーク・ヘルプリンの倫理観みたいなものだったようにも思えるのです。

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