『アンダー・ザ・スキン』 ジャンルミックスの奇妙な味わい
2014.12.29 21:20|小説|
この小説を題材にした映画『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(主演:スカーレット・ヨハンソン)がとてもよかったので、改めて原作を読んでみました。作者はミッシェル・フェイバー。翻訳は林啓恵。

主人公のイサーリーは毎日ヒッチハイクの男を拾っています。その男には一定の条件があって、筋骨隆々の身体を持っていなければならないし、家族や友人が多い者は避けなければなりません。なぜかと言えば、イサーリーは男を薬で眠らせて、ある場所へと拉致する役割を担っているからです。
そんなイサーリーは男を誘うための豊かな胸を持つ女性ですが、背は低く分厚い眼鏡をかけていて魅力的なのかどうかいまひとつわかりません。ヒッチハイカーたちも胸の大きさには惹かれても、そのほかのアンバランスさには異様な印象を持っているようです。
いったい何のためにイサーリーはそんなことをしているのかという謎が物語を牽引していきます。
※ 以下、ネタバレがありますのでご注意ください!

映画版を観た人ならばすでに明らかなことですが、このイサーリーは実は女の姿をしたエイリアンです。イサーリーはどこかの世界から地球に派遣されている人類とは別の生命体です。彼らは4本足の生き物で、イサーリーは外科手術によって2本足の人類を装って、男を捕獲する役割をしていたわけです。そして、その男たちはアジトで食肉とされることになります。彼らにとっては4本足の彼らこそが人間で、地球のわれわれのような2本足はヴォドセルと呼ばれる動物とされます。
なかなかおもしろい設定です。こうした寓話の場合、人間とエイリアンの関係が現実社会の何に対応しているのかと憶測をすることになるわけですが、それが具体的に何を示しているのかは僕にはよくわかりません。ただ階級社会とか男女差別のようなものを仮想敵として描いているようには感じられますし、動物虐待なども視野にあるのでしょう。
イサーリーが嫌悪感を抱いているアムリスという登場人物がいます。アムリスは4本足の生き物でイサーリーたちの種族の権力者の息子です。アムリスはイサーリーから見ても完璧な美貌を備えていて、地球のヴォドセル(つまりわれわれ)に対しても情けをかけるような優しい心を持っています。それでいてその父親は人肉食ビジネスを始めた張本人でもあるわけで、イサーリーはアムリスに複雑な感情を抱きます。イサーリーが2本足のフリークスにさせられたのは、アムリスのような権力者たちの仕業ですが、同時に彼らのような特権階級に憧れを抱いているようでもあります。読み方によって様々に解釈できる小説になっていると思います。
イサーリーは酷かった故国を思うよりも、地球の自然の美しさに惹かれ、それを最後の慰めにしてもいるようです。最後の描写はロレンス『黙示録論』の結語を感じさせます。

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主人公のイサーリーは毎日ヒッチハイクの男を拾っています。その男には一定の条件があって、筋骨隆々の身体を持っていなければならないし、家族や友人が多い者は避けなければなりません。なぜかと言えば、イサーリーは男を薬で眠らせて、ある場所へと拉致する役割を担っているからです。
そんなイサーリーは男を誘うための豊かな胸を持つ女性ですが、背は低く分厚い眼鏡をかけていて魅力的なのかどうかいまひとつわかりません。ヒッチハイカーたちも胸の大きさには惹かれても、そのほかのアンバランスさには異様な印象を持っているようです。
いったい何のためにイサーリーはそんなことをしているのかという謎が物語を牽引していきます。
※ 以下、ネタバレがありますのでご注意ください!

映画版を観た人ならばすでに明らかなことですが、このイサーリーは実は女の姿をしたエイリアンです。イサーリーはどこかの世界から地球に派遣されている人類とは別の生命体です。彼らは4本足の生き物で、イサーリーは外科手術によって2本足の人類を装って、男を捕獲する役割をしていたわけです。そして、その男たちはアジトで食肉とされることになります。彼らにとっては4本足の彼らこそが人間で、地球のわれわれのような2本足はヴォドセルと呼ばれる動物とされます。
なかなかおもしろい設定です。こうした寓話の場合、人間とエイリアンの関係が現実社会の何に対応しているのかと憶測をすることになるわけですが、それが具体的に何を示しているのかは僕にはよくわかりません。ただ階級社会とか男女差別のようなものを仮想敵として描いているようには感じられますし、動物虐待なども視野にあるのでしょう。
イサーリーが嫌悪感を抱いているアムリスという登場人物がいます。アムリスは4本足の生き物でイサーリーたちの種族の権力者の息子です。アムリスはイサーリーから見ても完璧な美貌を備えていて、地球のヴォドセル(つまりわれわれ)に対しても情けをかけるような優しい心を持っています。それでいてその父親は人肉食ビジネスを始めた張本人でもあるわけで、イサーリーはアムリスに複雑な感情を抱きます。イサーリーが2本足のフリークスにさせられたのは、アムリスのような権力者たちの仕業ですが、同時に彼らのような特権階級に憧れを抱いているようでもあります。読み方によって様々に解釈できる小説になっていると思います。
イサーリーは酷かった故国を思うよりも、地球の自然の美しさに惹かれ、それを最後の慰めにしてもいるようです。最後の描写はロレンス『黙示録論』の結語を感じさせます。
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