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『私の男』 父と娘、ふたりの愛の理由

2015.03.04 20:16|小説
 桜庭一樹の直木賞受賞作。
 先月DVDが発売された同名映画(主演は二階堂ふみ浅野忠信)がとても素晴らしかったので……。父と娘の愛というテーマはそれだけでかなりきわどいものです。しかも娘はまだ年端のいかない少女。映画では実際の役者が演じるわけで、当然のことながら色々な制約があって映像化できない部分が出てきます。原作小説ではどこまで踏み込んで書かれているのかが気になって手に取りました。

私の男 (文春文庫)



 映画版は花という少女が子供のころから始まり、その父である淳悟との関係の行く末を、順を追って描いていきます。一方で小説では、ふたりのあやしい関係がほのめかされ、過去の殺人などいくつかの謎が提示されます。そして時間を遡りながら謎を解き明かしつつ、ふたりがそうなるに至る原因を探っていきます。

第1章 2008年6月 花と、ふるいカメラ
第2章 2005年11月 美郎と、ふるい死体
第3章 2000年7月 淳悟と、あたらしい死体
第4章 2000年1月 花と、あたらしいカメラ
第5章 1996年3月 小町と、凪
第6章 1993年7月 花と、嵐


 小説『私の男』の章立てはこんなふうです。第3章は淳悟が一人称の語り手となっていくわけですが、「俺は」という一人称が使われるのは、ほかの章と比べるとかなり少ないですし、ましてや自分の内面について語りだすこともありません。
 そしてこの小説では美郎と小町という、花と淳悟以外の登場人物が一人称の語り手になっていることも重要かもしれません。ふたりだけの関係ならば――外部の社会など無視してしまえるのならば、近親相姦というものが悪いのか否かは自明のものではないからです。近親相姦のタブーはどこの社会でもあるそうですが、何が原因でタブーとされているのかは見解の一致をみないとも言われるそうです。
 だからふたりが好き好んでそうしているのならば、何も問題はないのかもしれません。ただ、ほかの人から見ればそうではありません。そんなわけでふたり以外の部外者の目によって、ふたりの関係の異常性が明らかにされます。かつて淳悟の恋人であった小町は、花を自分から淳悟を奪った憎むべき存在と考えますが、実は淳悟の闇を感じるに至り、花こそが被害者なのだと感じるようにもなります。映画よりは原作小説のほうが、淳悟の闇の部分は強調されていますが、それは時間を遡っていく小説の構成にもよるのでしょう。

映画版『私の男』 主演の二階堂ふみと浅野忠信はどちらも素晴らしかった。

 最後の章に描かれるような性愛描写は一般的には怖気をふるうものだろうとも思います。ただセックスはふたりにとってはひとつになることだとも強調されています。

わたしは自分を産んだ女の人とこのからだが、むかし、へその緒で一つに結ばれていたなんてなんだかぴんとこなかった。だけども自分とおとうさんとは、足のあいだから黒いおそろしい根が生えて、ひとつにつながっているように感じられた。(p.260)


 花は父・淳悟ともひとつになり、母親ともかつてひとつでした。花にとって淳悟は「私の男」であり、また淳悟にとって花は「俺のもの」であり、自分の血を受け継いだ「血の人形」でもあります。そして、淳悟は花に対して「おかあさん」とも呼びかけるわけで、ここではかなり倒錯的なあり方ではありますが家族という血の結びつきだけが支えになっています。
 もともと何か欠損していたからそうなってしまったのかもしれません。淳悟が抱えていた闇や孤独感といった何かが、この世にほかにいない血のつながった存在――たとえそれが娘であったとしても――それと決して離れたくないし、ひとつになりたいというちょっと普通ではない想いになるのかもしれません。最後に描かれるふたりの姿は暗いだけではないのですが、その原因を考えると何だか暗澹とした気分になります。

私の男 [DVD]


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 桜庭一樹が直木賞を受賞した同名小説の映画化。  監督は『海炭市叙景』などの熊切和嘉。  主演には浅野忠信と二階堂ふみ。中学生から結婚間近の女までをごく自然に演じ、かなりきわどい役を乗りこなしている二階堂ふみはやっぱりすごい。モスクワ映画祭で主演男優賞を獲得した浅野忠信は、銀座の街を赤い傘を差しながらサンダルで歩くという落ちぶれた姿がよかった。『さよなら歌舞伎町』でもエロかった河井青葉は...