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『テロルと映画 スペクタクルとしての暴力』 テロリスム廃絶のための映画論

2015.08.17 20:01|映画
 著者は『ルイス・ブニュエル』(第64回芸術選奨文部科学大臣賞)などの四方田犬彦

テロルと映画 - スペクタクルとしての暴力 (中公新書)



 著者によれば、「テロリスムが人間に向かって何かを訴えるときには、つねに映像メディアを媒介として、スペクタクルの形態をとる」といいます。戦場における破壊行為や個人的な怨恨による殺人などはテロリスムと呼ばれるには不充分であり、映像メディアを通して不特定多数の目に触れることでテロリストのメッセージを伝達しえたときにテロリスムとして成立するということです。
 そんな意味では、911での世界貿易センタービルの崩壊は世界に強烈なメッセージとして伝わりました。そして、そんなスペクタクルをテレビ画面で見せつけられた多くの人は、それをハリウッド映画で観たようなものだと感じました。映画は「テロリスムが本来的に抱いているスペクタクル性を借り受けることで、産業として発展してきた」のです。
 著者によれば「忠臣蔵」や「新撰組」といった作品は、日本では度々取り上げられる題材もテロリスムということになるようです。「忠臣蔵」は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目でしたが、その後は何度も映像化され年末の風物詩のようにもなっていますが、たしかにテロリスムの一種なのかもしれません。この場合どうしても観客はテロリスト側になるであろう赤穂浪士に肩入れして見てしまいますが……。

 著者がテロリスムを描いたフィルムを大雑把に分類したものは以下のようになります。

A 民族国家成立時に実際になされたテロリスムを、〈原初の殺人〉として神話化するフィルム。(例:グリフィス『國民の創生』)
B テロリスムを社会秩序と安全を脅かす悪とみなし、その駆逐と排除の過程をエンターテインメントとして提示するフィルム。(例:ジョン・マクティアナン『ダイ・ハード』)
C 懐古趣味。テロリスムの盛行を時代の背景として用い、政治的イデオロギーが摩滅した後の現在の時点から、ノスタルジアに耽るフィルム。(例:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ『輝ける青春』)
D テロリスムの不可能性と不可避性を同時に見つめる、きわめて真摯な意図のものに製作されたフィルム。


 この本で取り上げられるのは、主にDに分類されるものです。特に、第4章から第7章までは4人の映画監督について検討しています。ブニュエル若松孝二ファスビンダーベロッキオの4人です。そして終章では「哀悼的想起としての映画――テロル廃絶に向けて」において、映画がテロリスムの廃棄のためになしうることの可能性を探っています。この終章部分はやや抽象的で、僕にはすんなり入ってこないところもあったのですが、4人の映画監督の作品分析はそれぞれ教わるところが多かったように思います。
 4人のなかで唯一未だ精力的に活動しているマルコ・ベロッキオ『夜よ、こんにちは』(2003年)は、イタリアで起きたアルド・モーロ元首相誘拐暗殺事件をもとにしています。しかし事件の正確な再現を目論んだものではありません。事件を引き起こした「赤い旅団」の一人の女性キアラは監禁した元首相の世話係ですが、仲間を裏切って元首相を逃亡させる夢を見ます。加えて、そうした事件のすべてがなぜか彼女が読んでいる脚本のなかにすでに書かれています。
 一般的なテロリズムを描いた映画は事件を正確に後世に伝えることを目的としてきましたが、ベロッキオのアプローチはそれとは異なります。歴史的報道資料と夢や想像的な光景を並置することで、「過去にあったと認識されてきたものとはまったく異なった光景を提示」し、理想的な政治のヴィジョンを問うことになっているのだといいます。以前に『夜よ、こんにちは』を観たとき、事件のすべてが脚本のなかに書かれているといエピソードがいまひとつわからなかったのですが、この分析を読むと腑に落ちるような気もします。

夜よ、こんにちは [DVD]


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