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読みつつ書き、書きつつぼんやり考える

読書は習い性なので、ついでにその本の感想などを書きたいと思います。

『ほんとうの法華経』 法華経はなぜ「最高の経典」なのか?
 サンスクリット原典から法華経を現代語訳したという仏教思想研究家・植木雅俊と、社会学者・橋爪大三郎の法華経を巡っての対談。
 『ゆかいな仏教』などでは橋爪氏が独自の仏教論を展開していましたが、この『ほんとうの法華経』では橋爪氏は聞き役に徹しています。橋爪氏は聞き役とはいえ、時折しつこくツッコミを入れて自分の納得のいかない部分に深く切り込んでいきます。この本は法華経の基礎知識から始まって、各章ごとに重要な部分を読んでいく形で、とても丁寧に法華経を教えてくれる本となっています。植木氏のほかの本は読んだことがないのですが、ほかの本も読んでみたくなりました。

ほんとうの法華経 (ちくま新書)



 法華経は「最高の経典」であると言われます。そのくらいはどこかで聞いたことがあったような気がしますし、法華経に関する解説本も読んだような気もするのですが、なぜ「最高の経典」であるのかという問いに具体的に答えるとなると詰まってしまいます。植木氏は法華経が「人間は誰でも差別なく、一人残らず、成仏できると説いているから」(p.17)だと答えます。この考えを「一仏乗」と言います。
 原始仏教のころは女性出家者もブッダの教えを成し遂げたとされていたのに、小乗仏教では釈尊は神格化され男性出家者ですらブッダになることができないと考えられるようになりました。大乗仏教では成仏をあらゆる人に解放しましたが、そのなかには例外もあって小乗の出家者である声聞と独覚の二乗は成仏できないとされました(二乗不作仏)。法華経はそんな小乗と大乗の対立を克服して、普遍的な平等思想を打ち出したということになるのだそうで、それが「一仏乗」という考えになっていきます。
 ほかにも涅槃経に説かれた「一切衆生悉有仏性」という思想や、勝鬘経にある「如来蔵」思想なども法華経に内包されていたものだと指摘されています。それだけでも法華経がいかに重要な経典であるかがわかります。

 法華経のなかでは「提婆達多品」とか「観世音菩薩普門品」などの話は僕も覚えていましたが、植木氏はあまり重視されてこなかった「常不軽菩薩品」を重要なものと考えています。
 不軽菩薩は教理の解説もせず、自分自身のための聖典の学習もせずに、ただ人びとに向かって「私は、あなたがたを軽んじません。〔中略〕あなたがたは、すべて菩薩としての修行を行ないなさい。あたながたは、正しく完全に覚った尊敬されるべき如来になるでありましょう」とだけ言い続けます。すると、そう言われた人びとはなぜブッダでもないのに勝手な嘘を言うのかと怒り出したりもするわけで、不軽菩薩はかえって危害を加えられたりもします。
 この「不軽菩薩」という名前は、サンスクリットでは肯定と否定、受動と能動の組み合わせを多重に表す言葉になっているとのこと。だから正確にそれを訳すとなると「常に軽んじない〔のに、常に軽んじていると思われ、その結果、常に軽んじられることになるが、最終的には常に軽んじられないものとなる〕菩薩」という意味合いが込められているようです。
 そんな不軽菩薩が臨終間際になったとき、法華経の法門が天から聞こえてきて寿命を延ばし、それから法華経の教えを説き始めるようになります。なぜ聖典を読むこともなかった不軽菩薩にそうしたことが可能だったか。植木氏はその回答にたとえば「人間を尊重する根源に、仏性を見る」(p.394)といった言葉をあてたりもしていますが、とにかく「経典読誦などの仏道修行の形式は満たしていなくても、誰人をも尊重する行ないを貫いているならば、それが法華経を行じていることになる」(p.399)のだと解釈しています。
 この部分には聞き手の橋爪氏も大きく同意を示していますし、読んでいても納得させられる部分でした。僕自身は仏教の教えを実践するような生活とは無縁ですが、釈尊の教えであるとされる「誰でも差別なく、一人残らず、成仏できる」という思想を、法華経という形で真剣に考えてくれていた人がいるということは何だか感動的なことだと思えました。
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  1. 2015/11/12(木) 20:37:17|
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